誰のせいだと思ってるの

「あー、またやっちゃった」
 ダイニングテーブルに並んだ二人分の食器。だけど、今日ここで夕飯を食べるのは僕一人だ。ヴィクトルは昨日から明日まで泊まり掛けで仕事に行っているから、今この家には僕とマッカチンだけだった。
 実は、昨日の夜も同じことをした。しかも食器を出すだけでなく、食材も二人分買ってきてしまう体たらく。仕方がないのでそのまま二人分の料理を作り、これから食べる夕飯はその残りだ。
 本人に見られていないだけマシか。もしこんな所を見られたら、何を言われるか分かったものではない。……いや、やっぱりなんとなくは想像がつく。一人で食べるのが寂しかったの?とか、そんなに俺と一緒にご飯食べたかったの?とか言うに決まっている。考えただけで恥ずかしくなって、頬が勝手に熱を持った。別に僕、寂しいなんて思ってないし。つい癖でやってしまっただけで、僕は決してそんなことは思ってない。頬の熱を誤魔化すように、誰に言うでもなく心の中で弁解をする。

 とは言え、これがいつもの癖になってしまう程、僕は二人でいることに慣れてしまったみたいだ。余分に出してしまった食器を手に取り、食器棚へと戻した。新しく買い揃えた食器、日本から持ち込んだ炊飯器や調味料。僕が来る前にはきっと無かった物が、キッチンを軽く見回すだけでも目に入る。
 こういうとき、一緒に暮らしていることを改めて実感する。ただ、いくら二人の物が増えても、本人がいなければ空虚だ。
 元々広かったこの家に僕も住み始めた頃、ヴィクトルが俺達とマッカチンで住んでちょうどいいくらいだね、と嬉しそうに笑っていたことを思い出す。普段は心地良い家のはずなのに、ヴィクトルがいないだけでひどく肌寒い。隣に体温を感じられないことが、こんなにも落ち着かないなんて。

 いつもヴィクトルが使っている椅子に腰掛けた。ヴィクトルのいない椅子を見ながら食事をするのが嫌だとか、断じてそんなことは思ってない。でも、今日はここに座って夕飯にしよう。
「……もう」
 早く帰ってこないかな。僕の周りはあなたのもので溢れているのに、一番必要なヴィクトルがいない。そばにいなくても、僕はあなたのことばかりだ。僕をこんな風にしたのはヴィクトルなんだから、責任取って、早く帰ってきてよ。

2023年10月29日