ミルクティーは真夜中に

 愛し合った翌朝は、早く起きた方がお茶を淹れる。
 いつからか出来た習慣の役目は、大半が朝に強いヴィクトルだ。正確には、受け入れる側である僕を気遣ってくれている部分が大きい。ほぼ同時に目覚めた今朝も淹れようとしてくれたから、ここはひとつ公平にジャンケンで決めた。
 お礼とともに「勇利が淹れてくれると美味しいんだ」なんて微笑まれてしまえば、勝負には負けても上機嫌になるというものだ。今朝のヴィクトルはミルクティー、僕はミルクなしのストレート。
 ベッドで待っていても構わないのに、ヴィクトルはわざわざキッチンまで着いてきてくれた。

 僕がお湯を用意する間に、ヴィクトルは食器棚からお揃いのマグカップを取り出した。
 きちんとしたティーセットはあるものの、僕達も割とズボラだ。洒落たティーカップの出番は少なめで、基本的には特にこだわりなくマグカップを使っている。
「勇利のミルクティーが飲みたいなあ」
「もう、今淹れてるだろ」
 手元を注視したまま、茶葉を入れたティーポットにお湯を注ぐ。
「そうじゃなくて」
 では何の話だと疑問符を頭に浮かべ、手を止めて視線を向けた。急かされているのかと思ったが、彼の様子を見るにそうでもないらしい。色違いのマグカップをダイニングテーブルに置き、ヴィクトルが僕のすぐそばに寄ってきた。
 手入れの行き届いた人差し指を唇に添え、にこやかに笑う。
「『勇利のミルク』が入ったミルクティーだよ」

 僕のミルク、とは。
 まだ眠気を引きずっていた身体を後ろから抱き込まれた。前に回された手が、僕の身体をオーバーサイズのシャツの上からゆっくりと撫でる。
 今身に着けているのは昨夜ヴィクトルが脱ぎ捨てたシャツと、ボクサーパンツだけだった。
 僕のシャツは思い出すのも恥ずかしいほど様々な液体でぐちゃぐちゃだったので拝借したのだ。ヴィクトルは所謂『彼シャツ』が好きらしく、こういうときも快く貸してくれる。その為ヴィクトルは上半身裸で、下は昨日穿いていたスラックス姿だ。鍛え上げられた肉体が眩しい。

 昨夜は遅くに二人で帰宅して、その流れのまま愛し合ったせいで寝不足だ。
 お茶を飲んだあとはシャワーとシーツの交換を済ませて、少しだけ二度寝をすることで話がまとまっていた。どうせシャワーを浴びるからとこんな格好で起きてきたけど、ズボンも穿いてくれば良かったと後悔する。今更ながら心許ない。
 そんな両足の間にヴィクトルの長い足が割り込んで、僕の股間をぐりぐりと刺激した。
「ひゃっ!?」
「ここから出るミルクだよ」
 思わずびくりと反応してしまう。耳元で吐息と共に甘い声で囁かれてようやく何を意味しているか理解した僕は、分かってしまったことを早速後悔した。自然と引き攣った声になる。
「な、なに、言ってるの……?」
「だから、勇利の美味しいミルクで淹れたミルクティーが飲みたいなって。俺の言いたいこと、分かるだろう?」

 分かりたくなかった。彼の頭の中はまだ真夜中に留まっているらしい。
 つまり、紅茶に僕のあれを掛けてミルクティーにして飲みたいということだ。一体どこで入れ知恵されたのだろう。世界のリビングレジェンドになんということを。
 逃げようとしたものの既に遅く、がっちりと抑え込まれてしまう。体格差もあり、悲しいことに力勝負では敵わない。それでも抵抗を諦めてはいけなかった。
「絶対しない! する訳ないでしょ!?」
「そうかな。勇利は俺に優しいから」
 ちゅ、と耳朶を軽く吸われる。
「最初は嫌だって言っても、最終的にはいつも俺のお願い聞いてくれるよね」

 

 爽やかな休日の早朝、のはずだった。
 立ったままダイニングテーブルとヴィクトルの身体に挟まれ、僕は身動きが取れずにいた。この状況をなんとか回避しなければ。もしうっかり流されてしまったとして、冷静になったときの精神的ダメージが大きすぎる。
 ついでにそのマグカップは誰が洗うのか。いや、そうじゃない。この先も使うの? そんなの、少なくとも僕は使いたくない。
「ねえ勇利。勇利が俺のマグカップに射精するところ、俺すっごく見たいな」
 語尾にハートマークが見えた気がする。甘えた声を出す唇に自分のそれを塞がれて、趣旨が変わってるじゃないか! という突っ込みも一緒に塞がれてしまった。
「……ん、んぅ……」
 身体を反転させられ、ヴィクトルと正面から向き合った。いつの間にか興奮を帯びていた瞳に晒される。きつく目を瞑れば、両腕ごと押さえ込むように強く抱き締められた。いけない、鼓動の速さが伝わってしまう。
 逃げることは許さないと言うように左手が後頭部へと回り、キスが深くなる。送り込まれた唾液を飲み込むのに精いっぱいだった。
 後頭部に回されていた手が耳の輪郭をなぞり、いたずらに指が這う。差し込まれた人差し指が耳の中を軽く引っ掻いた。あ、それ、駄目。身を捩じらせることも出来ず、与えられる刺激から逃げられそうになかった。
 往生際悪く、一瞬離れた隙に声だけでもと抵抗する。
「やだ、耳……、だめっ!」
「本当にダメ? 勇利はここ、好きだろう? 嘘ついちゃダメだよ」
 僕を責める唇が、頬に口付けを落としながら指で弄るのとは反対の耳へ移動した。舌先が縁をべろりと舐め上げ、凹凸を舐め回す音が浮かされた頭に直接響く。だから、駄目だってば。
 舌と指で、両耳を同時に犯される。僕の耳を弱点にしたのはヴィクトルなのに。

 力が入らない。止まらない行為に、下半身に熱が集まっていく。
「あっ、や! やだ……っ!」
 不意に手のひらが熱を撫でた。先端は既にボクサーパンツを押し上げて染みを作っている。ヴィクトルは僕の勃ち上がったペニスに下着を引っ掛けないようにずらした。露出したそれを大きな手で直接ゆっくりと擦られ、もどかしさにもっと強くしてほしいと強請りたくなる。
「……ぁ、だめ、しない……、から」
「しないの? もうこんなに反応してるのに。ミルク、出したいんじゃない?」
「ああぁ……っ! も、や、むりぃっ……」
 唾液で濡れた唇は耳を執拗に責め、舐めて吸ってを繰り返してはべとべとにされる。至近距離で息を吹き込まれてはもう自分の足で立つことも出来ず、目の前の広い胸に縋り付いた。
 服越しでも分かるくらい硬くなったペニスが僕のものを刺激し、快感を揺さぶる。生々しい感触が昨夜の記憶と熱を呼び起こす。ヴィクトルを受け入れていた場所が、きゅんと疼いた気がした。

 呼吸の荒さを誤魔化せない。ヴィクトルは力の抜けてしまった僕を解放してテーブルの上に乗せた。座ったテーブルの冷たさが熱を帯びた身体に心地良い。太腿でたぐまっていた下着は、簡単に取り払われてしまった。
「足開いて、勇利がオナニーするところ見せて」
 熱の籠もった視線を感じながら、のろのろとした動きで足を開いた。勃ち上がった自身を従順に晒す。いけない暗示にでも掛かってしまったみたいだ。
 開いた足の間に、ヴィクトルがティーポットとマグカップを置いた。
「その前に紅茶、淹れてくれる?」
「……う、ん」
 蒸らしたままだった紅茶を、震える両手で普段ヴィクトルが使っているマグカップに注ぐ。時間を置きすぎてしまったせいで、それはいつもより濃い飴色をしていた。
 僕から受け取ったティーポットをテーブル脇へと追いやると、ヴィクトルはそれぞれの手で両足首を押さえ、勝手に閉じないよう固定してしまった。
「や、なんで、」
「動いて零したら危ないだろう」
 そんなのはただの口実だと分かっているのに抗えない。蒼い瞳がまっすぐに僕を見ていた。心拍数が上がり、開いたままの唇で喘ぐ。
「見ちゃ、やだ」
「何故? もっと見て、って顔してる」
「うそ、し、してない!」
「してるよ。俺に見て欲しくて堪らないって、やらしい顔」
 口調だけは穏やかに、ヴィクトルは僕の右手を引いて濡れたペニスに導いた。まさかヴィクトルの見ている前でこんなことをするなんて。ただでさえ明るい場所で晒されて恥ずかしいはずなのに、それは何故か上を向いたままだった。
「ほら、早くしないと冷めちゃうよ」

 本当は、見られて興奮している。もっと気持ちよくなりたい。湧き上がる欲望に勝てず、ゆっくりと右手を動かす。
 元々自慰の頻度は多くはなかったけど、恋人同士になってからは更に減った。今では自分のものよりヴィクトルのものに触る回数の方が多い。
 久しぶりに自分で触るせいか、ぎこちない動きになる。数時間前にベッドで散々弄られたことを思い出しながら擦れば、溢れた先走りが僕の指を汚していった。
「っ、はぁ……っ、あっ」
「ほら、ここに出すんだよ。俺に勇利の美味しいミルクティーを飲ませて?」
 まだ湯気の上がるマグカップを、自身の手前に置かれた。普段なら良い香りと温かさで心を癒やしてくれるそれが、今は興奮の材料にしかならない。僕の意識も欲望に溺れた昨夜に逆戻りしていた。
 毎日囲む食卓で、僕のミルクで淹れたミルクティーを準備している。ヴィクトルに飲んでもらうために。
 つい、この先のことを想像してしまった。こんな妄想で興奮してしまうなんて大概僕もどうかしている。それでも背筋には、言い逃れの出来ない快感が駆け上がっていく。尿道口を親指でぐりぐりと弄れば、強すぎる刺激に息が詰まった。
「ヴィクトル、いく、いっちゃ……! あ、あぁぁ……っ」
 ぎゅっと目を瞑って自身を一際強く擦ると、身体がビクビクと跳ね上がった。足の指がぎゅっと縮こまる。掴まれた足は痛いくらいの力で押さえつけられて、動くことはなかった。もしかしたら痕になっているかもしれない。
 ぽちゃりという水音がしたのは、きっと精液がマグカップの中に入ったからだろう。直接狙うような余裕なんてあるはずもない。恐る恐る瞼を開けば、テーブルの上には精液が飛び散っていた。

「ぁ、零しちゃった……」
 ぼんやりとして呼吸も整わないまま、白濁に塗れた手をマグカップの上にかざす。
 熱く鋭い視線が僕に突き刺さる。その燃えるようなアイスブルーに犯されながら握っていた手を開き、まとわりついた精液をマグカップへ垂らした。
 指先を伝ってぽたり、ぽたりと飴色の液体の中に吸い込まれていく。そもそもミルクではないのだから紅茶と混ざる訳もなく、到底ミルクティーになんてなるはずもない。僕の精液は、飴色の表面に固まって浮いていた。
 僕、何してるんだろう……。そう思うのに、興奮した脳内はまだ冷静さを取り戻せそうになかった。

「いただきます」
 ヴィクトルはようやく僕の両足の拘束を解くと、代わりに手にしたマグカップへと口付ける。身体は脱力して動けず、半ば放心状態でそれを見ていた。
「勇利の味がする……。美味しいよ、勇利」
 うっとりとした声だった。瞼を伏せ、まるで香りまで楽しんでいるみたいだ。実際に飲んでいるのは渋くなってしまったはずの、紅茶ともミルクティーとも呼べないものだと言うのに。倒錯的なその姿にさえ色気を感じてしまう。
 浮き出た喉仏が動き、この行為が現実であることを僕に知らせる。味わうように飲む様子はどこかの雑誌の一面でも飾れそうだった。飲んでいるものさえ言わなければ。

 カップの縁に垂れた白濁を、艶めいた唇が拭い取る。中身をすっかり飲み干したヴィクトルは、ごちそうさまと口にした後、こう続けた。
「お礼と言ってはなんだけど、勇利も俺のミルク、飲みたい?」
 紳士的な口調とは裏腹に話の内容は酷いものだった。
 はっと我に返り、ヴィクトルの視線から逃げるように下を向く。すると今度は自然と目に入ったヴィクトルの下半身に釘付けにされてしまった。窮屈そうにしているそれは、服を脱がなくても分かるほどの大きさで主張している。知らぬ間に口の中に溜まっていた唾液を飲み込んだ。
 答えはひとつしかなくて、背筋がぞわぞわした。
「上と下、どっちの口が良い?」
 あんな風に精液を飲まれて興奮するなんておかしい。おかしいけど、明け方近くまで愛し合っていた身体は従順すぎて既に限界だった。もう一度、一番奥まで熱を捻じ込まれたい。震える声で懸命に返事をする。
「……し、下が良い……」
「素直でいい子だね」
 欲望に正直な自分が恥ずかしいのに、良い子だと頭を撫でられる刺激すら快感に変わった。

 ぐいと腰を引き寄せられ、深い口付けを交わす。縋るようにヴィクトルの首の後ろへと腕を回して身体を密着させる。これ以上は焦らされたくなくて、自分から舌を差し出した。
「俺もう我慢出来ないよ、勇利……今すぐブチ込みたい」
 二人の唾液でいやらしく光る唇から漏れたのは、切羽詰まった声だった。ヴィクトルも興奮しているのだと思うと堪らない気持ちになる。荒い息遣いがどちらのものなのか、判断は付かない。
「ん、いい、いいからっ……はやく、ちょうだい」
 テーブルの上にゆっくりと押し倒された。太腿に置かれた手が僕の足を大きく開かせる。再度反応を始めていた欲望の更に奥、ヴィクトルによって性器へと育てられた場所は、勝手に収縮を繰り返していた。
「勇利のえっちでやらしいところが丸見えだよ。恥ずかしいね、見られて興奮してるの? ひくひくしてる」
「うんっ、みて……! 僕の恥ずかしいとこ、全部見てよぉ……」
「……っ! あんまり煽らないで、もう、最っ高だよ勇利」
 欲に塗れた蒼い瞳に僕の全てを映してもらいたかった。視線でも犯されたい。
 止めていたシャツのボタンを外そうとするも、手がもたついて上手く外せなかった。もどかしさに泣きたくなる。それすらもヴィクトルに見られていると思うだけで、どうしようもなく気持ちいい。

「おっぱいも見て欲しいの? 可愛い……。いいよ、今ボタン外してあげる」
 助けを求めて見上げると、どうして欲しいのか察したかのようにヴィクトルがシャツのボタンを上から順に外しはじめた。開かれたシャツから覗いた乳首は、既にぷくりと勃ち上がっていた。
「すごいね、勇利のいやらしいところ、全部よく見える」
 涙の滲んだ視界にぼんやりとヴィクトルが映っている。瞬きをすると、涙が零れてクリアになった。
 ヴィクトルは怯える獲物を目前にした獣のように、恍惚とした表情をしていた。今にも捕食されそうな強い視線に、逃げる気すら起こらない。いっそ早く食べて欲しい。僕を、ヴィクトルのものにして欲しかった。
「綺麗だよ……俺に食べて欲しいんだよね?」
「は、ぁっ……ん、はぁ……っ」
 荒い呼吸を抑えられない。上手く声も出せなくて、小さく頷くことしか出来なかった。
「可愛い、俺の勇利」

 恍惚とした声が耳に届く。ヴィクトルが膝の裏に添えた手に体重を掛け、僕は尻を突き出すような体勢になった。
 シャワーを浴びる前に眠ってしまったせいで、穴の中はローションを含んだままだ。期待でひくつく場所に、待ちわびた先端がぷちゅりと下品な音を立ててキスをする。躊躇いなく、一気に奥まで貫かれた。
「あ、ああぁっ、……っ! あ、ぅ……!!」
 気持ちいいところを強く押し潰される感覚に、目の奥がチカチカする。ようやく満たされた快感に溺れそうで、必死になってヴィクトルの頭を抱え込んだ。
「ひゃっ!? やだ、いやぁ……っ」
「こっちはまだ可愛がってあげてなかったね。触るのと舐めて吸われるのと、勇利はどっちが好き?」
 挿入の快感に翻弄されている状態で乳首に吸い付かれ、予期していなかった強すぎる刺激に目を見開く。唾液で濡れた乳首にやわく息を吹き掛け、分かりきったことを聞いてくるから憎らしい。
「も、やだ……いじわる、しないでっ」
「そうだった。勇利はえっちで欲張りだから、両方だぁい好きだもんね」
 ヴィクトルはにこりと微笑むと、もう一度乳首を口に含んだ。そのまま噛んで引っ張られて、もう片方は指でぐにぐにと捏ねられる。
「やぁぁ……っ! 噛んじゃ、だめぇ……!」
 舌で乳首を舐め上げる様子を見せつけられ、声が止まらない。こうしてヴィクトルに開発されるまでは性感帯でもなんでもなかったのに、今では無意識に腰が揺れてしまう。
「動いて欲しい?」
 ヴィクトルが顔を上げると、乳首と唇を繋いでいた唾液が糸を引いて切れた。
「……動い、て」

 僕の好きな場所を狙いヴィクトルが身体を大きく揺さぶる。太くて硬いものが入ってくる感覚も出ていく感覚も堪らず、全身で歓喜する。
「っぁ、や、ヴィ、ヴィクトル……っ!」
「……っは、勇利……っ」
 抱きつく腕がお互いの汗で滑る。ぽた、とヴィクトルの額から流れた汗が僕の頬を伝った。首の後ろに回していた腕でヴィクトルの顔を引き寄せ、まだ額に浮かぶ汗を舌で舐めとる。
「っ! 勇利……?」
「いつも……、っぁ、舐められてばっかり、……だから、仕返し」
 驚いた表情のヴィクトルを見て、自分の衝動的な行動に恥ずかしくなる。誤魔化すように曖昧に笑うと、ペニスがぐんと大きくなったのが分かった。
「ちょ、まって、なにっ? ……あっ!」
「今のは勇利が悪い」
 前触れもなく律動を再開され、受け止めきれないくらいの快感に襲われる。止まらないピストンに、後はもう翻弄されるだけだった。
「あ、やぁぁっ! ……ヴィクトル、びくとるぅ……!」
「ごめん勇利、すぐイきそうっ……」
「んっ、いい、出して、ぁんっ、中に、いっぱい出して……!」

 全身が熱い。お願い、はやく、はやくちょうだい。
 ヴィクトルの熱を受け入れて食べているのは僕のはずなのに、貪られているのも僕だった。ヴィクトルが自身を入口のギリギリの所まで引き抜き、最奥まで勢いよく貫いた。一番奥まで受け入れたくて、自然と腰が浮く。
「や、……イく、あ、あ、ああぁー……っ!!」
「くっ……ゆうり……っ」
 太いカリで前立腺を刺激されながら奥を突かれて、きつく締め付けながら達した。間もなく、ヴィクトルも僕の中で果てたのを感じた。奥深くにびゅくびゅくと精液が注がれている。昨日あんなにしたのに、まだ出るの。
 ゆらゆらと腰を動かして残滓まで全て注ぎ込み、ようやくヴィクトルが僕の中から出ていった。ずるりと出ていく感覚にさえ反応してしまい身震いする。
 しばらく動けそうになくて肩で息をしていると、ヴィクトルが開いた唇に触れるだけの口付けをくれた。大きな波のあとの可愛らしいそれに、口元で笑みを返す。僕を見つめる海の色の瞳からは荒々しさが消え、今は愛おしさばかりを伝えてくれていた。

 

 息切れしていた呼吸も落ち着き、大きく息を吐いた。
「可愛かったよ、勇利」
 汗で額に貼りついた前髪をかき上げる何気ない仕草にも、僕の胸はときめく。ヴィクトルは僕をテーブルの上に抱き起こすと、ちゅ、と軽く頬にキスを落とした。
「俺のミルクは美味しかった?」
「……ばか」
 居たたまれず、両手で顔を覆い隠す。思い出させないでほしいのに、上機嫌な言葉は止まらない。
「これから毎日食事のときに思い出して。ここで勇利が俺にミルクティーを淹れてくれたこと。俺が勇利のミルクティーを美味しく飲んだこと。ね?」
「も、絶対やだ……」

 ヴィクトルのばか。僕には文句を言う権利がある。顔を上げて更に抗議を続けようとすると、朝からこんなことをしたせいで声が掠れていることに気付いた。そういえば、結局起きてから何も口にしていない。
「ヴィクトル。僕、喉渇いた」
「そうだ、俺だけ飲んじゃったね。それなら今度は、俺が勇利に美味しい紅茶淹れてあげる」
 そう言うとヴィクトルは先ほど使ったティーポットと、放置されていた僕のマグカップに手を伸ばした。

 待って、紅茶を飲むならティーカップにしようよ。

2024年8月12日